【講演要旨】
▪ 堀端 章 氏(近畿大学生物理工学部 生物工学科 教授)
「町内のヤマハゼと櫨の遺伝的つながりの最新研究」
江戸時代中期,製蝋業の興隆にともなって,九州からもたらされたハゼノキが関東以西で大規模に栽培されるようになった.ハゼノキの大規模栽培が行われた和歌山県紀美野地区では,栽培ハゼノキから近縁野生種ヤマハゼへの遺伝的浸潤が起こったとみられる.本研究では,この地域で採取したハゼノキおよびヤマハゼの RAPD-PCR とクラスター分析を行い,新産業導入が近縁野生種の遺伝的多様性に与えた影響について検討した.その結果,この地域ではハゼノキとヤマハゼの交雑が進んでいて,典型的なヤマハゼは既に消滅していることが示唆された.また,製蝋業が衰退し,ハゼノキ園が管理されなくなると遺伝的浸潤の速度が増すこと,花粉や種子が小鳥によって運搬されるハゼノキやヤマハゼでは,針葉樹の経済林が遺伝的浸潤の障壁となる可能性も示唆された.
▪ 鞍 雄介 氏(アンフィ合同会社 ボランティア研究員)
「町内で見つかった県内最古の榧の接ぎ木個体の発見」
高野山麓に位置する和歌山県旧美里町管内の2群の地区から採取したカヤ(Torreya nucifera (L.) Siebold et Zucc.)集団,特にその一変種ヒダリマキガヤについて,RAPD-PCRを用いたクラスター分析を行った.その結果,地理的要因(地区)によって大きくクレードが分枝した後に,それぞれのクレード内に変種のサブクレードが形成された.この結果は,地理的分化が確立された後に外部からヒダリマキガヤが種子で導入されて各地域の遺伝子プール内に浸透したことを示唆している.その導入時期は両地区で一致し,一定の時期に積極的な導入が行われた可能性が示唆された.一方,推定樹齢400年のヒダリマキガヤの古木では,株元から生じたひこばえと主幹部の枝との間に遺伝的差異が観察されたため,この樹が接ぎ木によって作成されたことが明らかになった.
▪ りら創造芸術高校 生徒のみなさん
「キノミノリ:櫨と榧の恵みを未来へ繋ぐ」
〇高校生が地域の恵みを再発見~「キノミノリ」から広がる高校生の地域活性化~
葡萄櫨(ブドウハゼ)と榧(カヤ)。どちらも紀美野町内にある樹木で、天然記念物として登録されています。ブドウハゼは、江戸~明治時代にかけて紀州藩内で和蝋燭の原料として栽培が盛んになり、この地域に豊かな富をもたらした特用林産物で、その最初の一本目が紀美野町に存在します。カヤは、紀美野町が高野山寺領であった時代に年貢として奉納されていたという歴史を持ち、現在も日本有数の自生率を誇り、町木にもなっています。
しかしブドウハゼもカヤも、時代の趨勢と共に様々な要因でかつての産業が廃れていき、2020年にはブドウハゼ産業は廃業の危機に、カヤは産業として残っているものがないという状態になっていました。りら創造芸術高等学校では、先輩方の調査研究活動から2020年に「ブドウハゼの原木」を天然記念物に再登録されたことを機にブドウハゼ産業の復活を後押ししようと、ブドウハゼを使った商品開発に着手。その活動から2022年に生まれたのが「マルチバーム キノミノリ」です。その後も先輩たちから代々受け継ぎながら「ブドウハゼ」と「カヤ」という木の実りについて、様々な調査や研究活動を行っています。
今回の発表では、先輩方が成し遂げた「マルチバーム キノミノリ」の開発と、現在の私たちが行っている地域に眠る恵みを活用した地域活性化の取り組みについてお話します。